さまざまな制約を乗り越え、
高速鉄道の未来を支える
AAU-11

Solution

限られたスペースの中で高性能なセンサを搭載する――新幹線の路線保守コスト削減と作業の効率化を達成すべく、ハードとソフトの両面で住友精密工業の技術力を遺憾なく発揮しました。

営業車両で路線の保守作業を行う。
必要なのは「高精度・省スペースそして低コスト」

これまでの新幹線の路線の凹凸測定は専用車両のドクターイエローに搭載したレーザー変位計で行われています。そうした中、路線保守の効率化のため、お客様を乗せる営業車両で計測を行うというプロジェクトの中で本製品は生まれました。走行中の車両からレールに照射するレーザーで車両の姿勢計測をおこなうには、高精度かつ大変高価なリングレーザージャイロ(RLG)が慣性センサとして使われています。専用車両であれば機材を積み込むのに十分な広さを確保できますが、営業車両はスペースの確保が難しく限られた場所の中で、高精度かつ複数の営業車両に搭載するためコスト低減が可能なセンサが必要でした。そこでMEMS式ジャイロセンサを用いた高精度なシステム開発で実績のあった弊社にご相談がありました。実際の開発では、実走試験においても様々な制約がありました。試験車両は新幹線のダイヤの合間を縫って運行するため、試験をする機会が限られています。そのため、1回1回の試験に向けて、確実に準備をしなければなりません。不測の事態に早め早めに対処し、円滑にプロジェクトを進められるようスケジュールを調整しながら開発を行うことに苦労しました。

住友精密工業の技術力で成し得た、
抜群の安定性を実現した高性能センサ

テストと改良の末、完成したのが高精度姿勢角検出ジャイロ装置「AAU-11」です。MEMS式ジャイロセンサを用いてリングレーザージャイロと同等の精度を実現し、かつコストを5分の1程度にまで抑えることができました。またMEMS式ジャイロセンサでは、使用時間が長くなるにつれて計測値に誤差が生じる課題がありましたが、独自のアルゴリズムを開発すると共に、実走行データや、クライアントからの提供データの分析から最適化を行いました。僅かな誤差が人命に影響する現場ゆえ、精密性と安定性は非常に重要です。クライアントと二人三脚で協力しながら、試行錯誤を繰り返し優れた製品を開発することができました。

クライアントの大きな目標を叶えるために、MEMS式ジャイロセンサを用いたシステム開発の研究は続く

現在は実際の営業車両での試験に向けて、さらなるデータの収集とその結果に基づくアップデートを進めています。我々が製作した部品はごくごく小さいもの。しかし、クライアントにとっては、今後大きな利益をもたらす可能性のある重要な存在です。両者が協力し、鉄道という一つの分野に特化した製品づくりができたことは、MEMS式ジャイロセンサの可能性を広げる大きな一歩になったと確信しています。また鉄道以外でも、ロボットの姿勢計測や自動車などの移動体に応用が期待されます。AAU-11が他社製品と比べ非常に高い性能を誇るのは、ひとえに90年代から続くMEMS式ジャイロセンサの研究の積み重ねと技術力の高さゆえ。今後は他分野でも活用できるよう、さらなる研究を重ね性能の向上をめざし続けます。